宇野理論究極の効用

馬場宏二

報告要旨

 宇野理論も不易の経典ではない。社会科学の常として,有効性が歴史の中で変動する。21世紀初頭の今日,最大の理論的限界は,古典派とマルクス経済学に由来するイギリス中心史観の枠組みである。それをアメリカ中心の枠に組み換えなければならない。何処まで可能か?

 宇野発展段階論は,資本主義の世界史を重商主義・自由主義・帝国主義の三段階に括り,第一次世界大戦で打ち止めにした。だが資本主義の発展は,アメリカを中心になお続いた。帝国主義の枠内に,国権社会主義体制と福祉国家の興亡を抱えた,古典的帝国主義・大衆資本主義・グローバル資本主義の三段階を設定する必要がある。

 アメリカ社会は,先住民殲滅・土地収奪の中で成立し,合衆国はきわめて効率的な領土拡張国家だった。金融資本成立以前に内陸部の農業的開拓が進み,ほぼ済んだころ,アメリカは列強の一つとして古典的帝国主義に合流した。

 第一次世界大戦は,ロシア革命と西欧社会主義の強化を惹起し,それと,アメリカ的な耐久消費財産業を基礎とし,福祉・政調両政策を並立させ得る大衆資本主義とが交錯する世界体制をもたらした。大衆資本主義は大内力氏の国家独占資本主義論を手掛かりとして捉え得る。

 グローバル資本主義段階は,MEを物的基礎とする株価資本主義の横行とソ連の消滅とによって,アメリカ帝国主義の暴走に抑制が効かなくなった段階である。

 新たな原理論は,イギリス史に則った純粋資本主義像では済まない。アメリカ社会の特質に則った土地市場と株式市場,擬制商品価格の投機的激動機構を明示的に含める必要がある。そこでは価値法則つまり純粋資本主義世界が成立しなくなる怖れがあるがやむを得ない。この方法的提言自体資本主義の,根源的には人類社会の,滅亡の予感を含蓄するからである。

 無限の自己増殖体である資本が社会の主体となった結果,第一次大戦後のアメリカを先頭に,過剰富裕社会が現出した。これが世界化すれば地球環境破壊が人類を滅亡させ,延いては資本主義を消滅させる。中国・インドの資本主義化の結果不可避となった。先進国側に自己抑制の動きがあったのに,グローバル資本主義が破壊した。

 宇野体系は以上を認識する理論的基礎にはなるが,救済の術は持たない。これが宇野体系究極の空しさである。

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